小さな変化が大きな結果をもたらす~【急に売れ始めるにはワケがある】書評

『急に売れ始めるにはワケがある/マルコム・グラッドウェル』

※旧題:ティッピング・ポイント

あなたの周囲の世界を眺めてほしい。それは向上する余地のない、がんじがらめの場所に見えるかもしれない。だが、そうではない。ちょっと正しい場所を押してやれば、傾くのだ。

こんにちは、哲也です。

 

口コミに関する本については、神田昌典の『口コミ伝染病』がありますが、本書はそれとは異なる内容になっています。

 

『口コミ伝染病』が、ビジネスで意図的に口コミを起こすためのハウツー本であるとしたら、この『急に売れ始めるにはワケがある』は、口コミが何故起こるのかというメカニズムを知ることが出来ます。

 

流行などの現象がなぜ起こるのかを知ることは、ノウハウを表面的に実践するよりも、より効果のある形で実践できると思います。

 

それでは、本書から学んだ内容について書いていきます。

ティッピングポイントとは何か?

ティッピングポイントとは、すべてが一気に変化する劇的な瞬間のことを指します。

 

本書では、この現象には3つの特徴があるとしています。

1つ目は、感染的特徴があり、ウイルスのように広がっていくこと。

2つ目は、きわめて小さな変化が、大きな結果をもたらすこと。

3つ目は、徐々に変化するのではなく、ある瞬間が訪れたとき急激に変化すること。

 

3つの中でも、最後の、ある瞬間が訪れたとき、急激に変化するということが最も重要視されています。

 

なぜなら、この3つ目の特徴があるからこそ、1つ目、2つ目の特徴が意味あるものになり、急激な変化がなぜ起こるのかという事について理解を深めてくれるからです。

ティッピングポイントの3つの原則

ティッピングポイントについて、1990年代にアメリカのある街で起きた、梅毒が爆発的に感染していった出来事を例に説明しています。

 

この原因を、1つの組織と2人の学者がそれぞれ説明したのですが、そのどれもが全く異なり、説は3つに分かれました。

一つは、安物の粗悪品のドラッグが、一つは医療施設の崩壊が、もう一つは市の政策による住民の拡散が原因であるとしました。

 

しかし、どの説も決定的ではなく、梅毒が爆発的に感染した道筋は一筋ではない。

 

それぞれの要素、原菌を運ぶ人々、病原菌そのもの、病原菌が作用する環境、これらが掛け合わさることによって起きたと説明します。

 

著者は、これらの要素を少数の法則、粘りの要素、背景の力と名付けました。

 

それぞれについて、詳しく書いていきます。

1の原則:少数者の法則

経済学者がよく使う言葉として、80対20の法則があります。

これは、仕事量の80%は、その仕事に関わった20%の人によって達成されるという考え方です。

 

そして、本書の少数者の法則は、それよりも少ない人数で、一握りの例外的な人々の努力によって、大きな変化をもたらされるとしています。

 

犯罪率の減少などの社会的伝染において重要な役割を果たすのは、ある資質が備わった人物です。

 

その資質を持った人とは、媒介者(コネクター)通人(メイヴン)セールスマンという役割を果たしています。

これらの資質は、一人一役になる場合もあるが、一人二役、例えば媒介者と通人の資質を兼ね備える人もいます。

媒介者(コネクター)

媒介者(コネクター)とは、人脈の広い人を指します。

 

僕たちの人間関係は、それぞれが均一で円環的に構成されているように感じます。

しかし、実は媒介者と呼ばれる人と関わることによって、ピラミッドを形成するように人間関係が構築されている場合が多いです。

 

媒介者は、弱い絆と呼ばれる人と多く繋がっています。自分が親しくしている友人が強い絆だとしたら、たまに会うけど、特別深く付き合う事もないような知人との関係が弱い絆です。

 

この弱い絆が多いのが媒介者の強みです。なぜなら、自分と近しい人というのは、自分と似たような環境であったり(同じ職場など)、自分と似た価値観を持っている場合が多いです。

しかし、新しい情報や新しい観点が必要になったとき、弱い絆の人(知人など)からもたらされる情報や助言が重要になる場合が多いのです。

 

弱い絆の達人であるからこそ、媒介者は重要な役割であると言え、この媒介者こそが口コミを伝染させる人になります。

通人(メイヴン)

通人(メイヴン)とは、情報の専門家の事です。

 

情報の専門家といっても、地位などは関係のない要素で、例えば大学教授のような人ではありません。

いわゆる市場通と呼ばれる人たちのことを指します。

 

通人を独自の存在にしているのは、ただ情報を多く持っているだけではなく、その情報を伝える術を持っているからです。

つまり、口コミによる伝染を始動させるための知識と社交性を持ち合わせています。

 

また、通人は、受け身の情報家ではありません。彼らの特異な特徴は、より良い買い物をする方法が分かれば、それを人に教えたがっていることです。

 

それはなぜなのか?

おそらく通人は、人が知らないことを知っていて、それを人に教えることに喜びを感じている。

 

それをすることによって、自己重要感を満たしているのでしょう。

セールスマン

通人は、情報のデータバンクの役割をはたし、媒介者はそれを社会に流す役割を果たします。

しかし、ただ情報が自分の耳に入っただけでは、それが良いものであるとは納得しませんよね。

 

説得をする技術を持つ人たち、これこそがセールスマンの役割です。

セールスマンは、ただ口説き文句が人よりも上手いだけではなく、話しの内容とは全く異なる”説得力”を感じさせる。

 

説得力を感じさせるカギとは何か?

 

その理由を知る前に、感情がどのようにして伝染するのかを知る必要があります。

自分の感情は、内から外へ出ているように思えますが、それだけではありません。

 

外から内へ、外部の刺激によって自分の感情が左右されることもあります。

なぜなら、楽しそうな人を見ると、何だか楽しい気分になるという経験があるかと思います。

 

これは、人が感情を模倣する生き物だからです。

つまり、気分や感情を上手に表現できる人は、他の人よりもはるかに感情の感染力が強くなる。

 

だからこそ、例えばセールスマンが『これはいいものだ』という感情を表現すると、自分まで『いいものだろう』と感じるようになる。

これが、セールスマンの説得力に繋がるのです。

2の原則:粘りの要素

あることが流行という大きな流れになるとき、その情報が人の記憶に残るようなものでなくてはいけない。

人の記憶に残るためには粘りの要素が必要となります。

 

”粘り”とはいったい何なのか?

著者は、情報の引き立て方であるとしています。

正しい状況に置けば、誰もがうなずかざるをえないような、単純な情報の引き立て方があるのだ。あとはそれを見つけ出せばいい。

内容そのものが粘りの要素を持つわけではなく、情報をどう生かすかが大切だという事です。

 

誰もが、人に強い印象を与えるための鍵は、提示するアイディアにあると思いたがります。

しかし、実は余白の部分に少しだけ工夫を加えることで、メッセージは一気に広がっていくのです。

3の原則:背景の力

ティッピングポイントが起こる原因は、それが起こる時の場所の条件と状態に敏感に反応します。

しかも、きわめて小さなことが原因になっている。

 

これこそが、著者が背景の力と呼んでいるものの正体です。

 

この背景の力を説明するのに、『割れ窓理論』に似た例え話をしています。

 

『割れ窓理論』とは、とあるビルの一つの窓ガラスが割れていることで、そのビルが無秩序な場所であるという信号を発して、そのビルだけでなく、周囲の場所までもが無秩序な場所へと変化してしまうというもの。

 

このように、大きな流れはごく小さな変化によって引き起こされる。

犯罪であれば、ニューヨークの犯罪率が急上昇したのは、地下鉄の落書きや無賃乗車が原因となった。

そして、小さな要因、落書きや無賃乗車を徹底的に排除することで、犯罪率を低くする要因になった。

 

どんなにまじめな人間でも、不正をしても罪を受ける心配がない状況や場所であれば、不正をする場合もある。

また、どんなに良い人でも、急いでいる場合は困っている人を見ても、助けようとはしない場合がある。

 

このような、背景の小さな変化も、爆発的な伝染には重要となります。

大きな変化を起こすために

大きな変化(社会的変革や口コミ)を起こすためには、大規模な努力が必要であるように思えるかもしれません。

しかし、実際には些細なことだと思えることが、大きな結果を生み出すことになります。

 

大きな変化を起こすのに必要な事、それは限られた資源を一点に集中させ、一気に投入することです。

投入するべき場所はどこか?

 

それは、媒介者(コネクター)通人(メイヴン)セールスマンという役割を持った人たちに集中的に資源を投入すべきです。

むやみやたらに努力や資源を投入することは、資源が限られているのだから、いつもそれをすることは不可能。

 

だからこそ、小から大を生む方法を、ティッピングポイントを探し出すことが重要なんです。

まとめ

口コミや社会的な変化がどのようにして起きたのか、それを解明していく過程は、読んでいて面白かったです。

 

ただし、本書は『急に売れ始めるにはワケがある』という邦題で、商品がどのように口コミで売れるのかを解説しているのかと思いきや、実際にはそのことに触れるのはごく一部。

 

口コミについて解説がしてあるというよりも、神田昌典の『口コミ伝染病』の作中の事例がなぜ成功したのか、この理由を知ることができるという感じです。

 

あくまでも、どのように口コミなどの現象が起こっているのか、ハウツーではなく、現象を理解するために読むべき本だと思いました。